子どもは宝、そして未来だから。『おかあさんといっしょ』歴代最長“おにいさんコンビ”の絆

「そこには子どもたちの笑顔が溢れていて、一緒に何かを楽しめる空間があった」
(左から)小林よしひささん、横山だいすけさん
川しまゆうこ
(左から)小林よしひささん、横山だいすけさん

あの『おかあさんといっしょ』が映画館にやってくる。

子どもも大人も楽しめる『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』が、1月24日に公開された。

2019年には60周年の節目を迎えた『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)。1959年に放送開始して以来、時代の変遷とともにリニューアルを重ね、親と子が一緒に楽しむエンターテイメント番組として愛されてきた。

映画では、番組の顔である“うたのおにいさん”、“体操のおにいさん”として、それぞれに歴代最長記録を更新した“おにいさんコンビ”が久しぶりの共演を果たした。

今はそれぞれに家庭を持つ横山だいすけさん、小林よしひささんに、卒業後の今の思いや、子どもたちへのメッセージを語ってもらった。

番組の顔である“うたのおにいさん”(横山だいすけさん)、“体操のおにいさん”と(小林よしひささん)して、それぞれ歴代最長記録を更新した“おにいさんコンビ”
川しまゆうこ
番組の顔である“うたのおにいさん”(横山だいすけさん)、“体操のおにいさん”と(小林よしひささん)して、それぞれ歴代最長記録を更新した“おにいさんコンビ”

横山だいすけ(よこやま・だいすけ)
国立音楽大学音楽学部声楽学科を卒業。劇団四季時代は「ライオンキング」等の舞台に出演。2008年からNHK Eテレの幼児番組『おかあさんといっしょ』で“歌のおにいさん”を歴代最長の9年間務める。2017年4月に卒業後、ドラマ、バラエティ、CM出演、舞台、声優と活躍の場を広げ、2019年7月にはソロアーティストとして初のオリジナルアルバム「歌袋」をリリースした。

小林よしひさ(こばやし・よしひさ)
日本体育大学体育学部社会体育学科を卒業。2005年からNHK Eテレの幼児番組『おかあさんといっしょ』で “体操のおにいさん”を歴代最長の14年間務める。番組卒業後はバラエティ、CMにも出演。19年12月には公式You Tubeチャンネル「よしお兄さんとあそぼう!」を開設。一児の父。

長年の夢? 偶然?“おにいさん”になるまでの道

川しまゆうこ

――横山だいすけさんは歌の「だいすけおにいさん」として9年、小林よしひささんは体操の「よしおにいさん」として14年、それぞれ最長記録を更新しています。お二人が「おにいさん」になった経緯は?

横山だいすけ(以下、横山)僕の場合は、歌のおにいさんになることが長年の夢だったんです。

だから夢が叶って初めて収録現場を訪れたときは、「自分がずっと思い描いていた場所がここにあった!」という感動がありましたね。

そこには子どもたちの笑顔が溢れていて、一緒に何かを楽しめる空間があった。

製作側の一員になったら理想と現実のギャップを感じることもあるのかなと心配していたのですが、まったくといっていいほどありませんでした。

よし兄の場合は、僕とは対照的だったよね。

川しまゆうこ

小林よしひさ(以下、小林):そうだね、ほぼ真逆かもしれない。僕の場合は大学で体操部に入っていたのですが、自分が「体操のおにいさん」になれるだろうと思ったことはほとんどありませんでした。

大学卒業後は大学の助手として勤めていたのですが、新卒を対象としたオーディションの話が来て、「どんな感じか後輩たちと一緒に受けてきてよ」と頼まれたので気軽に受けて引率したら、たまたま受かってしまったという。

だから人生で一番の緊張と震えを感じたのは、おにいさんのオーディションに受かった後なんです。「自分も偉大な先輩たちのようにならなきゃいけないんだ」というプレッシャーをひしひしと感じましたね。

あたたかさを押し売りしない

川しまゆうこ

――「うたのおにいさん」「体操のおにいさん」として、大切にしていた信条はありますか。

横山:僕は番組を卒業して3年が経ちましたが、当時も今も、子どもと関わるときは自分自身が一緒に楽しむことをすごく大事にしています。

疲れていたり無理したりしているときは、どんなに取り繕っても子どもにはすぐすぐ見透かされてしまうというか。

『おかあさんといっしょ』は月曜から土曜まで、毎日放送されている番組。毎日ですから、いろんな楽しさやアクシデントがあります。

大泣きしている子、思いっきり踊っている子、子どもたちのありのままの姿を、うたのおにいさんとして一緒に歌を楽しみながら画面の向こう側に届けていく。その姿勢はずっと大事にしています。

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小林:収録現場では毎回、45人の初対面の子どもたちが集まります。

もちろん途中で泣いてしまう子もいますが、最後は必ずみんなあったかい雰囲気のなか笑顔で帰っていくんですよ。それこそ魔法のように。

体操のおにいさんとして収録現場に入ってみて初めて、そのことのすごさ、恐ろしさを感じました。歴代のおにいさんやおねえさん、スタッフたちは50年以上にも渡ってこんなすごいことを続けてきたんだな、って。

横山:毎回、番組の最後に曲が流れるのですが、そこではキャラクターたちが手を繋いで、子どもたちのためにトンネルを作るんですよ。

実は、あのトンネルは番組に参加してくれた子どもたちへのプレゼントなんです。その前のゲームや歌の時間では画面に映らなかった子も、あのトンネルを潜る時間はちゃんとカメラに映ることができるし、いつも見ている(人形劇「ガラピコぷ〜」の)チョロミーやガラピコ、ムームーに直接触れることもできる。

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そういった細やかな工夫や、キャストや製作者の思いが、あの25分間にたくさん詰まっている。あたたかいんだけど、そのあたたかさを押し売りするわけじゃない。

それが61年にも渡っていろんな人の思いを繋いできた『おかあさんといっしょ』という番組の素晴らしさだと思っています。

小林:歴代のおにいさん・おねえさんを含めて、本当に関わっている皆さんがスペシャリストの集団なんです。

だからこそ、自分も“体操のおにいさん”として、パズルを完成させるためのひとつのピースになるために頑張らないと、という思いは日々持っていましたね。

赤ちゃんも楽しめる映画に

川しまゆうこ

――劇場版最新作となる『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』や全国各地でのファミリーコンサート、2013年から放送が始まった『おとうさんといっしょ』など、派生コンテンツも増えています。

小林:『おかあさんといっしょ』が映画になるってどういうこと? って思いますよね? 初めて聞いたときは私もそう思いました(笑)。

コンサートや劇場版は、自分にとってはご褒美のようなもの。いつもの収録とは違う楽しみ方やパフォーマンスができる、特別な場所だと思っているので、番組卒業後にも出演させていただけてすごく嬉しいです。

僕の長年のお友達である「すりかえかめん」さんも大活躍するので、ぜひ親子で観に来ていただければ(笑)。僕も1歳の娘と一緒に、親子で映画館へ行くつもりです。

川しまゆうこ

横山:テレビともコンサートとも違う、映画版ならではの驚きと楽しさが詰まった作品になっていると思います。

今の歌&体操のおにいさん・おねえさん4人の個性がすごく発揮されているし、僕自身も久しぶりにあつこおねえさんと一緒に『シェイクシェイクげんき!』を歌うことができて、とっても楽しかったです!

2年ぶりの共演だったのですが、あつこおねえさんがすごく頼もしい存在に成長していて。

本番前に表情や動き、「こうやってみます?」「こんな感じはどうかな?」と細かいアクセントをたくさん相談したのですが、それがすごくいい形で画面に表れているので、ぜひ皆さんにも観てほしいです。

――とはいえ、幼い子を育てていると、どうしても映画館やコンサートといった娯楽の場から遠ざかってしまいがちです。

小林:そうですよね。ですから、赤ちゃん連れでも安心して楽しめるように、上映中も照明は真っ暗になりませんし、泣いても叫んでもOK。

本編中には、スクリーンに映っているキャストと一緒の記念撮影タイムもあります。観客も含めてみんなで作り上げる映画になっていますので、ぜひ親子の初映画にしていただけたら。

川しまゆうこ

横山:音量も、普通の映画作品よりも控えめに、子どもが聞きやすいように細かく調整しているそうです。

スクリーンを観た我が子がどんな表情・反応をするのかな、というのもママやパパにとっては楽しめるはずです。観客のほとんどが親子連れですから、一緒に声をあげて、親子でコミュニケーションをとってみてください。

子どもは宝であり、未来

川しまゆうこ

――子どもたちは、お2人にとってどんな存在ですか?

小林:私自身、子育てを始めたことで、やっぱり世界の見え方が変わりました。町を歩いていても、以前は気づけなかったことに気づけるようになった。

子どもって、本当に“宝”だな、と日々実感しているし、この子たちがこれからこの国をつくっていくんだと思ったら、目先の損得だけじゃなくて、よりよい将来・社会を作るために行動をしていけたら。

横山:僕も子どもは未来だと思っています。そんな未来である子どもたちに、エンターテイナーである僕らが何を届けられるかを、常に考えて行動していきたい。

子育てがしづらい、子育て世帯に厳しいといわれている今の日本で、子どもたち、そしてママやパパに、楽しい時間、元気になれる時間を今後も精一杯届けていけたらと思います。

川しまゆうこ

(取材・文:阿部花恵 写真:川しまゆうこ 編集:笹川かおり)