はあちゅうを叩く前に。「あなたの近くにも『電通』はある。声を上げよう」

これは日本の病理です。

ハリウッドのプロデューサーがセクハラや性的暴行をしていた疑惑がニューヨーク・タイムズなどの報道で明らかになりました。

女優のアリッサ・ミラノさんが、10月15日に、同様の被害を受けたことのある女性たちに「Me Too」とツイッターで呼びかけるように訴えたところ、世界中に#MeTooムーブメントが広がりました。

日本でも、いち早く小島慶子さんら著名人が、#MeToo を付けて、Twitter上でご自身のセクハラ体験を告白しました。

【はあちゅうによる号砲】

そんな状況の中、12月17日に以下のような記事がBuzzfeedに掲載されました。

「#metoo に背中を押されました。必死の訴えで、少しでも世の中が良い方に変わることがあれば」

電通のクリエーターであった岸勇希さんによる、はあちゅうさんへのセクハラについて、詳細に書かれています。

内容は胸焼けがするような酷いものでした。以下に部分的に抜粋します。(セクハラ被害者の方は、当記事によるフラッシュバック等がある可能性があるので、十分ご注意ください)

ーーーーー以下、引用ーーーーー

「本社に異動した頃、岸さんから『今すぐ飲みの場所に来い。手ぶらで来るな。可愛い女も一緒に連れてこい。お前みたいな利用価値のない人間には人の紹介くらいしかやれることはない』などと言われるようになりました」

「『俺に気に入られる絶好のチャンスなのに体も使えないわけ? その程度の覚悟でうちの会社入ったの? お前にそれだけの特技あるの? お前の特技が何か言ってみろ』と性的な関係を要求されました。『お前みたいな顔も体もタイプじゃない。胸がない、色気がない。俺のつきあってきた女に比べると、お前の顔面は著しく劣っているが、俺に気に入れられているだけで幸運だと思え』と」

「また当時の彼女とのセックスについて『あいつは下手だからもっとうまい女を紹介しろ。底辺の人間の知り合いは底辺だな。お前もセックス下手なんだろ。彼氏がかわいそうだ』などと言われました」

ーーーーーーーー

被害者が被害を内面化するのではなく、その被害を社会に向けて伝える「スピークアウト(声を上げること)」が始まったのです。

【追随する被害者】

はあちゅうさんの勇気ある告発に勇気付けられ、ネット上で実名で声を出す動きも出始めました。

政治アイドルの町田彩夏さんは、以下のように語ります。

高橋まつりさんの過労死自殺も、長時間勤務とともに深刻なセクハラ・パワハラがあったとされていますが、いまだに明るみに出ていません。

長時間労働については、業務時間外の消灯等の対策を進めている電通ですが、彼らがセクハラ・パワハラに対しても今後、どのような対応策を取っていくのか、あるいはこのまま沈黙を続けるのか、企業の姿勢が問われます。

【始まる被害者叩き】

一連の被害者の方々の「スピークアウト」に対して、バッシングも始まっています。

はあちゅうさんに対しては、

「普段、下品なコラムを書いているのだから、そっちもセクハラだろ」

「セクハラ加害者に友人を紹介したお前も同罪だ」等です。

こうした「被害者たたき」は醜悪ですが、ネット上では「よくある」ことです。

「保育園落ちた日本死ね」騒動の時も、保育園に入れない側の母親を「言葉遣いがなってない」と叩き、ベビーカーで移動しづらいことを嘆く親に対して「満員電車で畳め」と叩く。

これは、「公正世界仮説」と言って、「悪いことが起きるのは、悪いところがあるに違いない」と、素朴に人間は信じ込んでしまう、という心理によって生み出されます。

アメリカでも同様の被害者たたきは起こっていて、victim blaming やvictim shaming と呼ばれ、批判されています。

【スピークアウトした人を、1人にさせないこと】

こうした状況に対し、周囲ができることは、「スピークアウトした人たちを、1人にさせないこと」です。

勇気を出して、思い出すだけで辛い思いを声に出した人たちの肩をさするような、側にいるよ、という思いを伝えることです。

ネット上では、RTをしたり、意思表示のコメントをつけたり、いいねをしたり、ということになるでしょう。

【女性だけの問題にしないこと】

セクハラは男女ともに被害者になることですが、比率としては圧倒的に男性から女性への行為が多いです。

男性側が

「俺は今まで、やってきたことの中で、セクハラだったことってあったかな」

「ノリで面白いと思ってたけど、あれってアウトだったのでは」

とこれまでの行動を省察して、新しい行動規範をラーニングしていくことも欠かせないでしょう。

さらには職場など、自らの組織にお茶汲み・女性への軽口、いじり等のセクハラ文化が根付いてしまっている場合、それをアンインストールさせていくアクションも取っていかなければなりません。

【電通だけの問題にもしないこと】

電通を代表する広告代理店の「業界ノリ」のダメさが今回露呈したとはいえ、これは代理店業界だけの話でしょうか?

これを、岸さんへの個人攻撃に終わらせてしまって良いのでしょうか?

就職活動でOBに相談していたら、そのままホテルに連れていかれそうになった。クライアントとしての立場を利用して、無理やり口説かれた、なんて話は、電通以外にも、そこら中の日本企業に転がっています。

つまり、これは日本の病理です。

それぞれの企業で、業界で、この病理の根絶に闘っていかなくてはなりません。あなたの近くの「電通」に対し、誰かがスピークアウトしていかなければなりません。

みんながみんな実名でスピークアウトできないだろうから、匿名でのスピークアウトも受け止め、意思決定者に繋げるようなフローも作っていかなければなりません。

企業側としてみたら、人材不足が進行する中で、優秀な人材を仕事以外のくだらない理由で潰されたり、失ったりするわけです。単なる大損です。対策しないで良い理由がありません。

我々ができること。スピークアウトした人たちを、1人にさせない。女性たちの問題に矮小化せず、男性もまた当事者なのだ、という意識を持つこと。そして電通のセクハラクリエーター放置の責任を追求するとともに、あらゆる組織のセクハラに対し、厳しく接し、是正を求めていくこと。各地でスピークアウトが起きやすいよう、環境を整えていくことが、非常に重要でしょう。

(2017年12月18日「Yahoo!個人(駒崎弘樹)」より一部加筆して掲載)

HuffPost Japan

性の被害は長らく、深い沈黙の中に閉じ込められてきました。

セクハラ、レイプ、ナンパ。ちょっとした、"からかい"。オフィス、教室、家庭などで、苦しい思いをしても私たちは声を出せずにいました。

いま、世界中で「Me,too―私も傷ついた」という言葉とともに、被害者が声を上げ始める動きが生まれてきています。

ハフポスト日本版も「Break the Silence―声を上げよう」というプロジェクトを立ち上げ、こうした動きを記事で紹介するほか、みなさんの体験や思いを募集します。もちろん匿名でもかまいません。

一つ一つの声を、確かな変化につなげていきたい。

メールはこちら break@huffingtonpost.jp

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