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入社後のミスマッチ防ぐ「ありのまま採用」とは? 知っておきたい3つの効果

「こんなはずじゃなかった...」がなくなるかも

どの企業も、採用に悩んでいる。

応募が集まらない悩み。内定を辞退される悩み。悩みの種はたくさんある。そして、「採用してしまった後」にも悩みがある。

採用時にはわからなかった、ミスマッチの数々。「見込んでいたほど、仕事ができない」という能力のミスマッチ。「こんなにハードワークだと思っていなかった」「もっとチャレンジングで、クリエイティブな仕事だと思っていた」と言われてしまう期待のミスマッチ。「周りの人と雰囲気が合わない」というフィーリングのミスマッチ。このようなミスマッチを入社後に解決することは、ほとんどできない。それゆえ、多くの人事や経営者が悩むのだ。

もし、このミスマッチを解消することができたら...それは企業にとって朗報なのではないだろうか?この点を研究しているのが服部准教授である。「人と企業の間には、思い込みが生まれやすい。入社前に言わなきゃいけないことをちゃんと伝えて、良好な関係を築いていくべき」。 服部准教授は主張する。そのような「ありのままを見せる」という発想から生まれ、採用に効く良薬のひとつが「RJP理論」。今回、このRJPの効能や成り立ちについて、服部准教授に詳しく話しを聞いた。

PROFILE

服部泰宏氏

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授

1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部専任講師、同准教授を経て、現職。日本企業の組織と個人の関わり合いや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2013年以降は特に「採用学」の確立に向けた研究・活動に力をそぐ。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞を受賞。

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「ありのまま採用?」今さら聞けない、RJP理論。

RJPの三つの効果

― RJP理論とは、どういった理論でしょうか?

服部氏『一言で言うと、「すべての情報をゆがめることなく求職者に伝える採用のあり方」についての理論です。1970年代にアメリカの産業心理学者であるジョン・ワナウスによって提唱されました。RJPは「Realistic Job Preview」の略で、日本語では「現実的な職務予告」と訳します。入社前に重要な情報を伝えないことで、求職者は入社後にショックを受けます。このことを背景に、入社後に「経験」としてショックを与えるのではなく、入社前に「情報」としてショックを与えておくべきだ、という発想から生まれた理論です。

例えば、「我が社は給与水準は高いが、その代わり他社に比べてハードワークだ。どのくらいハードワークかというと...」というように入社前に出来るだけ詳しく伝えておく、ということです。入社後に初めて、ハードワークの現実を知るとショックを受けます。しかし、入社前に言われていれば、覚悟して入社しますよね。このように、事前にありままの仕事の現実を、パソコンの印刷前のプレビュー画面を見るように、確認をさせておく、というのがRJP理論の概要です。

注意が必要なのは、ここで伝えることは必ずしも「ネガティブ」な情報だけを伝えるわけではないということです。「現実的な情報」とは会社や仕事の厳しさや悪い情報だけではありません。ポジティブなこともネガティブなことも、全て正直に伝えて「お互いに選び合える」ようにしていこう。というのが、RJP理論の本質です。』

― ありがとうございます。RJP理論の概要と狙いがよく理解できました。次にRJP理論のもたらす効果について教えてください。

服部氏『まず、「ワクチン効果」があります。ワクチン効果とはインフルエンザの予防接種のように、事前に抗体物質(ワクチン)を投与することで、免疫を作っておくことです。つまり、事前にネガティブなことも含めて接種しておくことで、会社に入ってからの様々なリアル(現実)に対して幻滅することがないようにする、ということです。

次に、「自己選抜効果(セルフスクリーニング効果)」があります。事前にリアルな情報開示をすることで、ミスマッチによって入社後に会社を辞める可能性の高い人たちの応募が抑制されます。リアルな情報にはネガティブな情報も入っていますので、それが嫌な人たちは自分から応募を止めるからです。候補者群の数は減ることになりますが、来た人たちは粒ぞろいになります。

最後に「コミットメント効果」があります。リアルな情報の提供は求職者の目には、誠実で正直な企業として映ります。企業の誠実さに対する求職者のポジティブな評価をもたらし、入社後の高いコミットメントを引き出します。求職者の方々に話しを聞いても、「はっきり言ってくれた方が気持ちいいし、入社したくなる」とよく言っています。限度はありますが、リアルな情報を出すことは、基本的には企業にとってプラスの影響を与えます。

この三つがRJPの主な効果です。』

RJPは伝統的リクルーティングへのアンチテーゼ

― ジョン・ワナウス氏がこの理論を提唱した背景について教えてください。

服部氏『それまでの欧米企業は「ポジティブな情報」を中心に、多くの人を集めてその中から優秀な上澄みの人を選ぶという伝統的な採用のやり方をしていました。このやり方だと、たくさんの人が不採用になります。また、入社してからもリアリティ・ショックを受けて辞めてしまう人が多数でます。たくさんの浪費が起こっていました。

ジョン・ワナウスは、こういったことへのアンチデーゼとして、入社後に大きなショックを与えるのではなく、入社前に小さなショックを与えておいた方が、たくさんの無駄を省くことができるのではないかと考えました。これがRJP理論が提唱された背景です。

アメリカでは80年代から90年代始めくらいに、このコンセプトが普及し始めました。日本では90年代終わりから2000年代始めくらいに、金井壽宏教授の「働くひとのためのキャリアデザイン(PHP新書)」で紹介され、広がりだしました。人事の方に話しを聞いても、RJP理論を知っている人は多いです。少なくとも言葉としては定着し始めているように感じています。』

― RJPの概要に続き、その効果と生まれた背景がよく理解できました。採用の本質を突いた重要な理論ですね。

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リアリティ・ショックとは

― 先程「リアリティ・ショック」という言葉が出てきましたが、こちらについて詳しく教えてください。

服部氏『リアリティ・ショックとは、人が新しい社会、新しい組織、新しい状況に直面した際に、その人がそれに対して事前に抱いていた期待と、彼(女)自身が実際に目にした現実との間のズレによって引き起こされる「衝撃」のことを指します。事前に持っていた期待と、現実との引き算がショックとなるのです。

先程の例でお話ししますと、ハードワークであることを覚悟して入社すれば、実際にハードワークであったとしても大丈夫です。引き算で出てきた答えが小さいので。しかし、マイペースでゆっくり仕事をしたいと思っていた人が、ハードワークの現実を目の当たりにすると、引き算の答えが大きいので、強いショックを受けてしまいます。

現実は一定であったとしても、本人の期待のレベル次第で、リアリティ・ショックが起こるのです。つまり、ショックは現実そのものが引き起こすのではありません。本人が持っている期待によって引き起こされるのです。ここが重要な部分です。』

― リアリティ・ショックは現実ではなく、持っている期待によって引き起こされる。採用時の情報提供のスタンスによって、リアリティ・ショックの大きさが変わる、ということですね。採用に少しでも携わる方は必ず理解しておくべき内容だと思いました。

「RJP理論」を、「最適な人材の採用」に活かす~「期待」と「能力」のマッチングを高める~

採用時に行なうべき三つのマッチング

― 「採用学」では、採用時に必要なマッチングが三つあると書かれています。そちらについて教えてください。

服部氏『採用活動は「募集・選抜・定着」という時間軸で行われます。その中で、マッチングしておかなければならないものは三つあります。それが「期待・能力・フィーリングのマッチング」です。それそれ、簡単に説明します。

「期待のマッチング」とは、個人が会社に対して求めるものと、会社が提供するもの(仕事特性、雇用条件、組織風土など)とのマッチングのことです。期待のミスマッチは入社後の幻滅につながり、社員の職務不満足や組織へのコミットメントの低下、そして離職可能性の増大をもたらします。

「能力のマッチング」とは、求職者がもっている能力と、企業が必要とする能力とのマッチングのことです。このマッチングの度合いが入社後の業績と直結します。

最後に「フィーリングのマッチング」です。これは、求職者と採用担当者が、お互いに「この相手とは合いそうだ」「一緒に働いてみたい」といった、いわば主観的な相性におけるすり合わせを行なうことです。非科学的にも思えますが、長期雇用が重視され、社員と企業の関係が長期間にわたることが多い日本では起きがちなマッチングです。このフィーリングのマッチングが面接官とのやりとりだけなど、限られた人に基づくものであることが多いことを考えると、入社後の幻滅につながり、職務満足やコミットメントの低下、そして離職へとつながる危険性は十分にあります。』

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「期待」とは何か?

― 一言にマッチングと言っても三つの種類があり、それぞれのマッチングがそれぞれ異なった結果を生むのですね。その中でも、期待のマッチングがなされないと、離職可能性の増大に繋がることは大きな問題だと思いました。「期待」について、もう少し詳しく教えてください。

服部氏『期待を言い換えると、「何かで測定をしなくても、言葉で確認が出来るもの」です。「高い論理的思考を求めます」と企業が言って、求職者が「持っています」と言っても、本当に持っているかはわからないですよね。確認ができません。つまり、これは「期待」ではありません。何かで測らなければならないものは「能力」となります。

「期待」の例を上げると「ずっと、東京で働きたい」「月給30万円以上は欲しい」「入社から3年以内には海外で勤務をしたい」「最初から企画の部署で働きたい」「終身雇用してもらえる」「明確なキャリアプランを用意してもらえる」等のことです。ですので、「期待のマッチング」とは、このようなことのすり合わせなのです。 先程もお伝えしましたが、「期待のミスマッチ」は最悪の場合、離職意志の増大につながります。丁寧にマッチングすることが必要です。

そして、それだけではなく「期待のミスマッチ」は業績にも間接的に関わってきます。間接的とはどういうことかというと、職務不満足、組織へのコミットメントが低い状態は日々のテンションを下げます。当然、業績にもその影響が出るということです。』

RJPと「期待・能力」のマッチング

― 「期待のマッチング」の重要さが非常によくわかりました。ありがとうございます。「期待のマッチング」の精度は「RJP」によって上げることは出来るのでしょうか?

服部氏RJP理論は、「期待のマッチング」の精度を上げるための理論と言ってもいいと思います。先程も申し上げた通り、RJP理論は、その発想そのものが、企業と求職者で、期待を合致させようとする考え方だからです。

ワクチン効果によって、求職者は期待の抑制と現実化をすることができます。自己選抜効果によって、間違った期待を持って応募や入社をすることを防ぐことができます。つまり、RJPがしっかりと機能すれば、「適切な期待」を持った、企業にとって魅力的な候補者群の形成ができます。そして、それが出来れば、高いレベルでの「期待のマッチング」もすることができるのです。』 ― RJPは「能力のマッチング」にも影響はあるのでしょうか?

服部氏間接的に影響してきます。RJPは自己選抜を促すので、候補者の数は基本的には絞られます。そうすると、採用担当者は、求職者一人ひとりに割くことができる時間が増えます。能力のマッチング精度も高めることが可能になるのです。』

応募者を多く募れば、優秀な人材が採用できる。この考えを捨てることが、「最適な人材の採用」への第一歩。

― なるほど。「募集段階」で自己選抜を促すRJPが「期待のマッチング」だけではなく「能力のマッチング」にも好影響を与えていくのですね。ただ、応募者を絞るのは勇気が入りますね。応募者は多い方が良いというのは、根強い感覚だと思うのですが、そちらについてはどのように考えればよいでしょうか。

服部氏『その背景には「大規模候補者群仮説」とでもいうべきものの存在があります。これは「応募者数が多くなるほど、候補者の中に優秀な人材が含まれる割合が多くなる」という一種の思い込みです。この仮説が信じられているので、まずは多く応募してもらうことが極めて合理的だ、と考えられているのです。

この仮説は正しくありません。少ない応募者であっても、多く集めた場合と同じ数の優秀な人を集めることは可能だからです。たくさんの応募者を集めることは、その後の選抜コストの増加につながってしまいます。それゆえ、とにかく応募者を集めるという発想は合理的とは言えないでしょう。

募集のもっとも重要な役割は、募集情報の提示によって求職者の自己選抜を促し、候補者群における企業と求職者の間の期待のマッチングを高い精度で行なうことに他なりません。多くの応募を集めようとすることは、自己選抜をさせないことにつながり、期待のミスマッチにもつながってしまいます。この思い込みから逃れることが「最適な人材の採用」につながっていくと思います。』

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「RJP」を成功させるためのエッセンス

マイナス面だけでなく、プラス面も一緒に伝える

― RJPを成功させるためのポイントはあるのでしょうか?

服部氏『定量化しづらいのですが、ポイントはあります。マイナス面だけでなく、プラス面も一緒にバランスよく伝えることです。マイナス面をきちんと伝えることはもちろん大事です。ただ、それだけでは、ほとんど良い人が応募してくれない、過剰にスクリーニングが効きすぎてしまうこともあるからです。

RJPは厳しい面だけを伝えることではありません。良いところもちゃんと伝えるものです。厳しい面と一緒に述べるからこそ、良い面がより活きてきます。

例えば、「すぐに仕事を任せて貰えると思っていたが、1~2年目は意外とルーティンワークが多かった」というマイナス面と「個人への人材育成方針が、思っていた以上にきめ細かく、様々なことを教えてもらえた。」というプラス面を一緒に記載する。

「最後は力作業(労働時間)で物事を解決しようとする体質がある」というマイナス面と「入社して3年目にはプロジェクト・リーダーとしてプロジェクト進行を任される。予想以上に早く任せてもらえた」というプラス面を一緒に記載する。

「バランスの良いゼネラリストは多いが、スペシャリストは意外と少ない。」というマイナス面と「社員一人ひとりのポテンシャルは非常に高いと感じる。経験も豊富で頭が非常に切れる。」というプラス面を一緒に記載する。このように、求職者に魅力も現実もきちんと伝わるようにすることが重要です。』

どんな人材が「自社にとって最適か」をきちんと定義する

― その他に成功のためのポイントはありますか?

服部氏『欲しい人材をきちんと定義することも大切です。ターゲットが違えば、厳しいと思うことも魅力的だと思うことも違ってくるからです。さすがに全ての情報を出すことは難しいですし、求職者は企業が出す情報を全て読み込むわけではありません。ターゲットが入社後にリアリティ・ショックを受けるであろうこと、魅力的に思うことを、たくさんの情報から取捨選択していくことが、RJPの成功には必要なのです。

求職者は関心がある部分だけを見て選んでいきます。それが「グローバル」や「20代の管理職の割合」という働く環境や風土だったり、「給与●●以上」や「年間休日●●」という衛生要因だったり、「部長候補」や「課長」というポジションだったりするわけです。ターゲットを決めることで、魅力として出すべきキーワードが決まってきます。

そして、リアリティ・ショックを受けるであろうキーワードも決まってきます。「グローバル」に刺さる人であれば、「実際に海外で働けるのは全体の20%だけ」とか、「部長候補」というキーワードに刺さる人であれば、「部長への登用は3年後くらいを考えている」などです。こういったことが「期待のマッチング」の精度を上げる情報提供につながるのです。

しかし、ターゲットを決められなければこのキーワードも決められません。ここがなかなか出来ていない企業が多いと感じています。 そういった意味で、欲しい人材の定義がRJPの成功につながると考えています。』

― 「最適な人材の採用」に向けて、非常に重要な示唆をいただくことができました。ありがとうございました。

編集後記:RJPは採用力の向上にもつながる

入社後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐために、RJPについて話を伺った。

求職者はリアルな情報を求めている。仕事を探す際に、 求職者の大部分が 口コミサイトを参考にしていることからも、それは明らかだ。それだけに、「正直・誠実」な姿勢は求職者には魅力に映る。ありのままを見せてくれていると感じることで、安心できるのだ。

「すでに、腹を割って何でも話す、という採用スタンスは日本企業の採用担当者に広がってきています」と、服部准教授は語る。正直さ・誠実さは、すでに採用のスタンダードとなりつつある。

今後はより一層、企業の採用姿勢が問われることになるだろう。「正直さ・誠実さ」が「採用力」を左右するのではないだろうか。入社後のミスマッチや採用力の向上に問題意識を持っているのであれば、今回の特集をもとに、自社の採用活動の「正直さ・誠実さ」を振り返ってみるのも良いのではないだろうか。

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